目的の建物を探したが、それらしき建物が見つからない。
しばし、境内をウロウロする。
1台のハイヤーが境内にやってきて、本堂とつながっている住居棟の玄関前に停まった。
運転手が車から降り、玄関のチャイムを鳴らす。
ほどなく、住職であろうお坊さんが2人、正装を身にまといハイヤーに乗り込む。
すれ違いながら、一般的な挨拶を交わして見送る。
お見送りをしていた住職の奥さんと思しき人に、陣屋の建物について尋ねた。
突然の訪問にもかかわらず、いやな顔ひとつせず、外に出てきて、指差しながら説明してくれた。
移築された小千谷陣屋の表玄関は、長らく住職が出入りする中玄関として使用していた。
場所は、本堂と住居をつなぐ「渡り通路」の中間にあった。
長年の風雪に耐え、ずいぶん傷んでいた。
そこへ地震が起こり、倒壊してしまった。
修復を宮大工に依頼したが、材木として傷みが激しく、元の素材では無理との診断だった。
素人が見ても、土台や柱はダメだと理解できた。
何としても修復したくて、何度も頼み込んだ。
やっと屋根だけは復旧してもらい、地蔵堂の屋根としたそうである。
小千谷陣屋の遺構は、大切に引き継がれていた。
檀家でもないのに、一つ一つ懇切丁寧に説明してくれた。
とても上品な方であった。
ニコニコしながらの話し方には、人の心を和ませるに十分な雰囲気を漂わせていた。
写真を撮らせていただいて、御礼を申し上げ別れたが、心は軽やかになっていた。
爽快な気持ちで、寺を後にした。